投稿日:2025.09.01 最終更新日:2025.09.01
海事産業とAIの現在地 ― デジタルが拓く未来の航路

今日は「海事産業とAI」について掘り下げていきたいと思います。
最近はどの業界でもAIの活用が進んでいますが、海運や造船といった伝統的な産業でもいよいよ本格的にAIが入ってきているんです。
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海事産業に押し寄せるAIの波
AIの市場規模を見ると、2024年には約43億ドル(約6千億円)、2030年までに年率40%近い成長が見込まれています。
これは単なるトレンドではなく、「AIなしでは効率的に業務を回せない時代」が来ている証拠ですね。
物流・海運業界はもともとデータの宝庫です。
航路、天候、積載、港湾の混雑状況、市況動向…… これらは人間が処理するには複雑すぎる。
でもAIなら瞬時に最適解を出せる。だからこそ、導入が急速に進んでいるんです。
計画業務の自動化で「属人化の壁」を突破
具体的な導入事例で一番多いのは「計画業務」。
- 配船計画:どの船をどの航路に出すか
- 運航計画:スケジュールや港混雑、天候を考慮した運航プラン
- 積み付け計画:積載パターンを決めて輸送効率を最適化
特に自動車船では、荷主や貨物の種類が多くスケジュール変更も頻発します。
ある船社では積み付け計画に6時間以上かかることもありますが、AI導入によって業務時間を大幅に削減。
さらにGHG削減や輸送効率の向上にもつながっています。
これまで「ベテラン社員の経験がなければできない」とされていた領域も、AIが知識を蓄積し属人化を打破。
組織として知識を引き継げるのは、大きな変化です。
安全分野での活用 ― 衝突回避から火災検知まで
安全対策にもAIは導入されています。
フランスのSea.AIは、カメラ+AIで海洋上の障害物を検知する技術を開発。
レーダーでは見えにくい漂流物や小型船も早期に発見でき、一部商船やヨットレースでテスト導入が始まっています。
また、自動車船の火災対策としても、AIカメラの搭載が進行中。
これは従来のセンサーよりも早期に異常を検知でき、「重大事故になる前に食い止める」ことが可能になります。
市況予測とオペレーション最適化
AIは市況予測にも応用されています。
海運マーケットは荷動き、船腹量、マクロ経済に強く影響されますが、その変動をリアルタイムに予測するのは人間には困難。
AIなら膨大なデータを処理し、短期・中期の市況予測が可能です。
さらに顧客対応にもAIは進出。
例えばCMA CGMは、フランスのAI企業に5億ドル規模の投資を行い、週100万件以上の問い合わせをAIで処理。
オペレーションの効率化と同時に、顧客体験の改善にもつながっています。
自動運航船の未来
もっと未来的な取り組みとしては、自動運航船へのAI導入があります。
Hyundai Glovis(韓国)は、世界初のAI制御自動車船(全長約230m、重量10万トン級)を2026年までに運航予定。
これは完全な無人運航ではなく、AIが航路判断や最適化を支援し、人間が監督する形。
将来的には「ほぼ無人運航」も現実になるかもしれません。
まとめ
AIは単なる効率化のツールではなく、「海事産業の未来の形」をつくる存在になりつつあります。
ただし最後に大事なのは、「AIを使いこなす人間の判断力」。 AIが出す答えをどう活かすか――それを担う人材育成の重要性がますます高まっています。