投稿日:2025.10.16 最終更新日:2025.10.16
米中「海上関税戦争」激化!自動車船1隻あたり1.5億円、港湾で始まる報復合戦

2025年10月10日、米国通商代表部(USTR)は、非米国建造の自動車船に対する入港料を1純トンあたり46ドルに引き上げると発表しました。
これは6月に示された修正案(14ドル)の3倍を超える大幅な値上げです。
7000台積みの大型自動車船では、入港料が約101万ドル(約1億5000万円)に達する見通しで、世界の海運関係者の間に困惑と警戒が広がっています。
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欧州大手が業績予想を撤回、自動車船業界に激震
欧州の自動車船大手ワレニウス・ウィルヘルムセン(Wallenius Wilhelmsen)は、この入港料引き上げを受けて2025年通期の業績予想を撤回しました。
同社は「当社や顧客への影響を精査中であり、短期的にはコスト上昇リスクが大きい」とコメントしています。
米国向けサービスを展開する日本の船会社も、影響を織り込めていない段階であり、慎重な対応が求められています。
背景:米国造船業の再建と対中制裁
USTRは2024年4月に中国関連船への入港料制度を発表しており、今回の措置はその一環です。
狙いは、米国の造船業を再建し、外国製船舶への依存を減らすこと。
実態としては、中国との経済対立を背景にした事実上の制裁措置であり、米国港湾を利用する世界中の船社・荷主に新たなコストリスクが生じています。
LNG船・LPG船は免除、中国製クレーンには最大150%関税
USTRは一部の輸送船・設備について修正も発表しました。
- LNG・LPG船:長期用船契約を結んでいるものは免除
- 港湾クレーン・荷役機械:中国製または中国製部品を使用しているものに最大150%の追加関税
つまり、エネルギー輸送船の安定供給を確保しつつ、中国製港湾機器には徹底的な圧力をかける構図です。
現場では混乱が拡大:コスト負担と判定の難しさ
これらの制度は、政治的メッセージにとどまらず、現場の実務にも大きな混乱をもたらしています。
- 契約書に特別条項がない場合、費用負担の所在が不明確
- 所有構造が複雑なコンソーシアム船は対象判定が困難
- 発表から施行までわずか数日で、準備期間が不足
こうした状況が短期的な配船の非効率化を生み、結果としてドライバルクや自動車船のスポット運賃上昇の要因となっています。
自動車市場にも波及:価格転嫁リスク
入港料の負担増は、最終的に自動車メーカーや消費者に跳ね返ります。
メーカーがコストを吸収するにも限界があり、結果として車両価格の上昇につながる可能性があります。
消費者の買い控えが進めば、自動車販売が減少し、自動車船の稼働率も低下。物流全体が連鎖的に縮小するリスクがあります。
「海の上」に広がる経済安全保障
これまで関税や輸出規制が中心だった米中対立が、いよいよ港湾や船舶といった現場レベルにまで波及してきました。
今後は、
- どこで建造された船か
- どの国の資本が入っているか
といった要素が港湾コストや寄港許可を左右する時代になる可能性があります。
まとめ
- 米中の入港料・港湾費の応酬が本格化
- 自動車船は1隻あたり1.5億円の追加負担
- 自動車価格・輸送コスト・海運市況に波及の可能性
今回の動きは単なる「海運ニュース」ではなく、世界の物流が政治の影響下に入り始めたことを示す象徴的な出来事です。
今後は造船国・資本構成・寄港地といった、これまでコストに含まれなかった要素が企業競争力を左右する時代に突入していくでしょう。