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タイ・カンボジア国境の衝突、日本企業の陸送に打撃

タイ・カンボジア国境の衝突、日本企業の陸送に打撃 | イーノさんのロジラジ

2025年7月25日付の海事新聞で報じられた「タイ・カンボジア衝突、日本企業の陸送に打撃」というニュースをもとに、サプライチェーンと物流リスクの観点から詳しく解説します。

タイ・カンボジア国境で軍事衝突が発生

7月24日、タイとカンボジアの国境地帯で軍事衝突が発生しました。場所は西部のポイペト周辺で、国境ゲート付近では民間人への被害も報告されています。

このエリアはタイ東部とカンボジア西部をつなぐ交通・物流の要所であり、人やモノの往来が盛んな地域です。今回の衝突で、サプライチェーンの「動脈」の一部が突然遮断されました。

矢崎総業の迅速な対応

影響を受けた日本企業の中で、特に注目されているのが矢崎総業です。カンボジア工場からタイ工場への部品輸送を、陸送から海上輸送に一部切り替える措置を発表しました。

さらに、タイ国内の工場で同一部品の生産も開始し、輸送リスクへの対応策としてサプライチェーンの冗長性を高めています。



この国境ゲートの閉鎖は6月下旬から始まっており、矢崎はすでにその段階で先手を打って対応していたとみられます。

「Type+1戦略」のリスクが表面化

カンボジアは「Type+1」戦略で注目されてきた国で、タイの人件費上昇を受けて周辺国に生産拠点を移す動きが加速していました。

その結果、カンボジアで部品を生産し、陸送でタイに輸送するモデルが広く採用されており、トヨタ、ホンダ、三菱など多くの自動車関連企業がこの構造に依存していました。


現在、生産自体に大きな支障は出ていませんが、在庫と輸送手段の切り替えにより一時的にしのいでいる状況ともいえます。

ただし、海上輸送は時間がかかるため、紛争が長期化すれば供給遅延のリスクが高まります。

労働力とインフラにも波及

物流だけでなく、人材面にも影響が出始めています。ミネベアのタイ工場では100人以上のカンボジア人労働者が勤務しており、人の移動制限労働力確保に支障を及ぼす懸念があります。

SNS上では、ポイペト周辺のセブンイレブンやBTSの施設が砲撃を受けたという情報もあり、生活インフラの安全性も危ぶまれています。

また、クルンタイ銀行やカシコン銀行国境沿いの35店舗を一時閉鎖アユタヤ銀行も2店舗の営業を停止するなど、金融機関にも影響が及んでいます。

今後の見通しと実務対応の必要性

現地では、「国境通行の再開は当面見込めず、混乱は長期化する」という見方が強まっています。

私の取引先企業でも、6月の時点で陸送から海運への切り替えを実施するなど、迅速な対応が進んでいます。

今回の衝突ではタイ側が空爆を実施し、死傷者も発生するなど、非常に深刻な状況です。サプライチェーンや輸送だけでなく、人道的・社会的な影響も無視できません。

今後は、柔軟かつ多重的な物流戦略の構築がより重要となります。一刻も早い現地情勢の安定と混乱の収束を願うばかりです。

動画視聴はこちらから