投稿日:2025.10.01 最終更新日:2025.10.01
インド、半導体量産を年内開始へ!世界サプライチェーンの変化

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投資額2.7兆円、10工場が動き出す
2025年、インドがついに“悲願”である国産半導体の量産開始に向けて大きく動き出しました。
10工場・総額2.7兆円という国家規模のプロジェクトが進行中で、年内にも最初の製品が出荷される見通しです。
インド政府はこれまでに、国内外の企業による10件の半導体新工場建設を承認し、総投資額は約1.6兆ルピー(日本円で約2.7兆円)に達します。
とくに注目されているのが、インド西部グジャラート州サナンド工業団地に建設されたCGパワー・アンド・インダストリアル・ソリューションズの工場です。この工場は日本のルネサスエレクトロニクスと協業しており、2025年内の量産開始を目指しています。
そして同工場では、自動車や通信機器に使われるマイコン半導体の組立・検査など「後工程」を担います。
半導体の「前工程」と「後工程」とは?
半導体の製造は大きく2つの工程に分かれます。
- 前工程(フロントエンド) シリコンウエハー上にナノレベルの電子回路を描き込む工程です。製造精度やクリーンルーム環境が極めて高度で、TSMCやSamsungのような企業が強みを持っています。
- 後工程(バックエンド) 前工程で製造されたチップをパッケージングし、組み立て、検査を行う工程です。こちらは労働集約型の工程であり、マレーシアやシンガポールなどが既に多くの拠点を抱えています。
今回のインドの取り組みでは、この後工程を中心とした生産拠点の立ち上げが進められており、前工程の工場はまだ数えるほどに限られています。
なぜインドは後工程に集中しているのか?
理由は大きく2つあります。
- 技術的な参入障壁が低い 前工程に比べ、後工程は高度なナノ技術や装置が不要なため、新興国でも参入しやすい。
- 雇用創出効果が大きい 組立・検査などに多くの人手が必要なため、国内雇用の拡大に直結する。
このため、インド政府はまず後工程からスタートし、「国産化実績を積む→前工程へと進む」という段階的なアプローチを取っているのです。
ただしその分、今後はマレーシアやシンガポールなど既存の後工程拠点との競合が激化する可能性があります。
中国依存からの脱却と「Make in India」
今回の半導体政策は、単なる産業振興ではなく、経済安全保障上の戦略的意図が強く反映されています。
現在、インドはEVバッテリーや半導体など多くの重要部材を中国から輸入しており、年間1000億ドルを超える貿易赤字を抱えています。
そのため、モディ政権は「Make in India(メーク・イン・インディア)」を掲げ、2021年には7600億ルピーの半導体振興策を発表。企業に対して装置購入の前払い補助など、他国にはないインセンティブを用意しています。
マイクロン、タタなど有力企業が次々参入
注目すべき参画企業も多数あります。
- CGパワー×ルネサス:マイコン製造(後工程)、年内量産へ
- マイクロン(Micron Technology):半導体メモリの後工程ラインを建設中
- タタグループ×PSMC(台湾):シリコンウエハーに回路を形成する前工程の工場を建設中(グジャラート州)
さらに、東京エレクトロンや富士フイルムなど、日本の半導体関連企業もインドへの進出を相次いで表明しており、日印間の技術連携も加速しそうです。
今後の課題と展望
インド政府の試算によれば、国内の半導体市場は2023年の380億ドルから、2030年には1100億ドルまで約3倍に拡大する見込みです。
しかし、課題も少なくありません。
- インフラ不足(電力・水・物流)
- 熟練エンジニアの不足
- 先端製造技術の蓄積不足
調査会社カウンターポイントリサーチは「TSMCのような先端プロセスに追いつくのは極めて困難」だとしつつも、地政学的リスク分散という文脈での投資価値は高いと指摘しています。
まとめ
インドは国産半導体による供給網確立という目標に向けて、確実に第一歩を踏み出しました。
これまで中国や台湾に依存していたグローバルサプライチェーンの分散先として、インドが存在感を強める中、日本企業の動向もカギを握ります。
2025年後半から始まるインドの半導体量産。その行方は、アジアの産業構造と世界の供給戦略を大きく変える可能性を秘めています。