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中国、米国関連船に「特別港湾費」導入!海上でも始まる“関税戦争”

中国、米国関連船に「特別港湾費」導入!海上でも始まる“関税戦争” | イーノさんのロジラジ

2025年10月15日、米中の“海上関税戦争”がついに勃発しました。

10月10日、中国交通運輸部が発表した「特別港湾費」が、世界の海運業界に衝撃を与えています。これは、米通商代表部(USTR)が中国関連船に入港料を課す決定をしたことへの報復措置です。

この制度は14日から発効し、米国関連船舶に新たな費用を課す仕組みです。ついに海上輸送の現場でも、米中の経済報復合戦が本格化しました。

特別港湾費の概要:最大1トンあたり1120元

新制度では、中国に寄港する「米国関連船舶」に対して、1純トンあたり400人民元(約8,550円)を徴収します。

さらに、以下のように段階的な引き上げが予定されています。

  • 2025年10月14日:400元(約8,550円)
  • 2026年4月17日:640元(約13,700円)
  • 2027年4月17日:880元(約18,900円)
  • 2028年4月17日:1120元(約24,000円)

同一航海で複数港に寄港しても、最初の寄港地のみ課徴。

同一船舶への課徴は年間5回までという設計で、USTRの制度を“鏡写し”にしています。

対象範囲は広く、定義もあいまい

特別港湾費の対象は、単なる米国籍船だけではありません。以下の条件に該当する船舶が含まれます。

  • 米国籍船、米国建造船
  • 米国企業・団体・個人が所有または運航する船舶
  • 米国企業・個人が25%以上の議決権または役員を持つ企業が保有・運航する船舶

つまり、「どこで建造されたか」「誰が株を持っているか」まで踏み込んだ設計となっており、企業グループやコンソーシアムの所有構造によっては、対象かどうかの判断が難しくなります。

実務現場は大混乱:わずか4日前の急発表

制度発表から施行までわずか4日という短さで、船社・代理店は準備期間をほとんど持てませんでした。

特に問題となるのは、既に締結済みの用船契約の費用負担です。契約書に特別条項がない場合、一般的には船主または管理船主が負担することになります。

この混乱は短期的な配船の非効率を生み、ドライバルク市場のスポット運賃を押し上げる可能性も指摘されています。

鉄鉱石航路では年間20億円規模の追加コストも

欧州のデータ会社ケプラーによると、特別港湾費が最終段階の1120元まで引き上げられた場合、鉄鉱石主要航路では1隻あたり年間1300万〜1600万ドル(約20億円)の追加コストが発生すると予測されています。

これは中国向け輸送を担うバルク船にとって深刻な打撃です。

コンテナ船にも影響:CMA、マースク、マトソンなど

コンテナ船分野でも影響は避けられません。

CMA-CGM傘下のAPLマースクマトソン(中国―ハワイ・西岸航路)などが対象となる可能性が高いと見られます。

一方、イスラエルのZIMは米国上場ながら株主比率が25%未満とされ、対象外と見られています。

直接的な影響は限定的、それでも意味は重い

米国建造船が少ないため、直接的な影響は限定的との見方もあります。

しかし重要なのは、中国が報復の場を“海運”にも広げたという点です。

今後、政治的対立が輸送コストや寄港許可に波及するケースが増える可能性があり、物流・貿易の現場における地政学リスクは一段と高まりました。

まとめ:報復と産業保護を兼ねた二重戦略

今回の特別港湾費は単なる報復措置ではなく、造船業保護米国への牽制を同時に狙った二重戦略です。

船主・荷主の立場からは、以下のような新たな実務リスクが生じています。

  • 契約上の費用負担の確認
  • 船舶の建造国・所有構造の精査
  • 中国寄港時の報告義務の遵守

物流の世界は、政治の影響をますます強く受ける時代に突入しています。

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